一護が異変に気付いたのは、学校を出て、しばらく経った後だった。
いつもの霊圧が復活している。いつも通りに道を歩いていると、視界に入ったのは、自分の腰ほども無い身長の小さな少女ではなく、こちらを見て仁王立ちしているいつもの姿の相棒だった。一護は、ルキアの数メートル手前で立ち止まった。
「どういう仕掛けだ?」
「浦原が、貴様を驚かそうと結界を張っていたらしいな」
「なんだってあの人は……で、いつ戻ったんだよ」
「つい先程だ。これから忙しくなるぞ。兄様に挨拶にも行かねばならんし、貴様の家族には泣きつかれるだろうし、明日からの学校の準備もあるしな」
「じゃあ何でこんなところでつっ立ってんだ」
一護の真上の厚い雲に覆われた空を見てから、再度一護に視線を戻すと、畳んだままの傘をひらひらと振ってルキアは笑った。
「雨が降りそうだったものでな……貴様が泣くかもしれんと思ったのだ」
「泣かねぇよ」
「どうだか」
「泣くのはそっちじゃねぇのか。……お前、約束破ったろ」
一護の耳に、雨の音と共に交わされた、小さな少女との約束が蘇る。
「たわけ。貴様が雨を好きになったら、という条件付きだったろう」
「そんなにあっさり好きになれるかってんだ」
「同感だ。そこでだ、一護」
ルキアはにやりと口の端を吊り上げた。
久々に見る朽木ルキアの表情に、無自覚だったが、一護はどこか安堵していた。帰ってきた、と一護が本当に感じたのは、この瞬間だったのかもしれない。
「雨の日は、白玉を食べるのが雨を好きになる近道だと思わんか?駅前に新しい店ができたらしい」
(いちご、しらたまをたべよう)
相変わらずなルキアの提案に、今度は一護が口の端をにやりと吊り上げた。
「却下だな。……後ろ、見てみろ」
「おお」
先程までの分厚い雲は割れ、その合間からいつかのように光の柱が伸びていた。光の柱はやがて光の帯となって、一護とルキアの居る場所まで届くのだろう。いつか、小さなルキアが必死に一護を迎えに来た、一護に堂々と『雨は止むものだ』と宣言した、あの日と同じように。
「早とちりなんだよ、テメーはいつも」
「仕方が無い、白玉は次の機会に持ち越して帰るか」
「次があんのかよ……」
「当然だ。約束しただろう?破ったら千本桜だ、必死にもなる」
一護が一歩踏み出し、ルキアと並んだ。もう、手を繋ぐ必要は無い。そして二人で帰路への一歩を踏み出した瞬間、ふつり、と何かが切れる気配がした。そして同時に、人が、空気が、霊達が動き出した。浦原の張った結界が消えたのだ。
今まで通りの日常が戻ってくる。遠くに混じり始めた喧騒を、ルキアは楽しそうに聞き、動き始めた空気を思い切り吸い込んだ。
そうして、一護とルキアは歩き出した。分厚い雲を引き裂いた光の帯は、ゆっくりと二人に迫り、やがて二人を飲み込んだ。
サニーデイズ
終章